Running night 00M 03S

友人から聞いた話(「月の夜」の参考に)

数年前の話
彼は、片田舎のファミリーマートでアルバイトをしていた。
比較的責任感のすくない暮らしのなかで彼の楽しみは、毎日早朝、仕事場に現れタラコスパを買っていく女の子を見る事だった。
彼女に気付いたのは、彼女がいつもタラコスパを暖めなしで買っていく事と、毎日彼にとっての最後のお客になる事からだった。
彼が、バイトを始めてからやく半年間この関係は、「温めますか?/いいです」に終始していた。
その日、彼は一人でバイトをしていた一緒に入るはずの学生は7時間を経過した今も現れない。
「雨のせいか」
ガラスのドアが開き、店内のポップソングのなかに雨音が混じった。
普段、あらわれるはずのない時間に現れた彼女は雨にぬれていた。彼女が向かった先にあったのは缶酎ハイだった。
缶酎ハイを手にカウンターにあらわれた彼女の目には涙の様なものが光っているように見えて、彼はその姿に目を奪われながら必死に言葉を探した「暖めますか?/・・・・・」沈黙の中にレジが終わり、彼女は再び雨のなかいつもとは逆の方に去っていった。
チャンスを失い少し落胆した彼に、地元新聞の朝刊が届けられラックに移すという作業があたえられた。
朝刊の見出しには、1kmほど先にあるサファリパークで男性職員が熊に頭を噛まれ死亡した事と、サファリパークの営業停止の記事がデカデカとサファリパーク入場ゲートの熊の写真と共に載っていた。
あまりに身近な事件、彼女が失ったのは仕事なのか、動物達なのか、それとも彼なのか。
彼の涙は彼女の状況に感嘆してか、明日から彼女に会えないことにか。
外は雨上がりの空に朝焼けが始まり薄い月が出ていた。
彼は東京に行く事を決めた。